IK multimediaのToneXPedalが発売されました。
色々検討した結果、買うことにしたのでDTMとバンドマンそれぞれの視点でレビューと使い方を解説していくよ!
Jampointも残ってたのでIKStoreで買い付けました。
サラッと触って思ったより良い点は
・デスクトップと音の差無い上レイテンシないから反応いい
・parameterツマミは意外とちゃんと使える
・スイッチング時の音切れが意外に短い。ちゃんとソロとかで踏み換えられるレベルな印象。#Tonexpedal pic.twitter.com/xQUATRQIHG— さとうたくや (@n_s_lab_tokyo) March 7, 2023
実機の使い方はこっちにまとめてます!
レビューまとめ
便利な機材ではなく、比較的玄人向けのキラー機材
アンプライクな歪みペダルを色々買い揃えるなら、これを選ぶのも一つの選択肢。
自分のお気に入りのアンプのサウンドを、気軽に持ち歩きたいという目的においては
Kemper,Quadcortexの代替となりうる。
音はアンプっぽくて格好いいし、ライン出力する場合のクオリティはかなり高い。
操作性や機能も必要最低限をおさえた作りになっているが
マルチエフェクター的な自由度、遊び的な部分がないので、発展性は無い。
人によって合う合わないが思ったより分かれる機材だと思うので
購入する場合は、きちんと事前検討すると良いと思う。
★レビュー本編の前に:ToneXPedalについての僕なりの解説
まず、ToneXPedalのレビューの前に理解しておきたいのは、ToneXというシステムの本質。
ToneXはマルチエフェクターやアンプシミュレータではなく、
kemperと同じく「リグプロファイラー」とでも呼ぶべき機材だということです。
アンプの内部構造やエフェクト、EQなどの構造については全く感知せず、
最終的な出音のみを解析することで、元の機材と似たような音を出すエフェクトです。
微調整のためにEQなどのコントロールはありますが、
これはtoneXのエフェクトの前後どちらかに入れられるデジタルなEQであり、
モデリング元のアンプやペダルのEQとは根本から別物です。
一方で、マルチエフェクターなどのアンプシミュレータと呼ばれる物の多くは
実機の回路設計から解析しているプロダクトも多く、
アンプのEQコントロールの効き方までシミュレートしているモデルが多いです。
お絵描きで言うと、
マルチエフェクターは緻密な絵描き歌を元に絵を描くのに対して、
プロファイラーは隣に絵を置いて模写するようなものです。
ぱっと見のクオリティは模写の方が高く感じることも多いのですが、
その絵をどう描いているかなどの根本的な部分については全くもって間違っている場合もあるので、
少し設定変更をしようとした際には、実機アンプ通りにならない場合もあります。
こうした点から、アンプの扱いに慣れてない初心者にはToneXはあまりお勧め度が高くない(※)……とは少し思うのですが、
値段とサウンドのクオリティのバランスを考えると、初心者もこのくらい良い音で練習した方が良いよなぁというジレンマを感じます。
※より厳密にいうなら、「もっとアンプライクな機材でアンプの使い方に慣れる方が優先度が高い」と思います。
さて、ToneXPedalの話に戻ると、そんなリグプロファイラーであるToneXシステムの「プレイヤー」機能だけ抜き出したのがTondXPedalです。
よく比較されるkemperやquadcortexといったアンプキャプチャー系の機材は、
本体でプロファイリング、つまり実機のキャプチャもできるのですが、
ToneXPedalは演奏・再生のみ対応となり、プロファイリングはPCソフト側の機能となります。
ToneX PedalにはソフトウェアのToneXもバンドルされているので、
もし既にリアンプ可能な機材を持っていれば、追加投資なしでリアンプできます。
KemperやQuadcortexは単体でもキャプチャー可能ですが、
そのメリットが十分に活かされるのって、
良いスタジオで良いマイク借りて録るとか、そういう時だけな気がするので
自宅に宅録環境を整えたDTMギタリストにとって
ToneXPedalのコストパフォーマンスは異様に高く感じられると思います。
逆に言うと、
プロファイリングが単体でできないので、
全くもってDTMに興味がない、感覚派のギタリスト勢にとってはかなり扱いにくい機材でもあると思います。(バンドマンには結構まだ居る)
要するに、
僕みたいにDTMやるしライブもやるっていう奴らに対して
かなりターゲティングをされた機材だと思います。
バンドマンとしてのライブ・スタジオユース視点のレビュー
ToneXPedalの仕様を確認して思ったダメな点は
・センドリターンがない
・IFが44.1k
・画面がショボい
・ルーティングが1系統(キャビシミュ有無で出力がわけられない)
・グローバルEQが無い— さとうたくや (@n_s_lab_tokyo) February 27, 2023
実物が来る前にマニュアルで仕様の問題点を挙げていますが、
サウンドは基本的にはソフトウェアのToneXと大差ないはずなので
操作性や仕様の部分が主な着目点になると僕は思っています。
①センドリターンがない
基本的に、このペダルを使う場合は
・プリアンプとして使う
・アンプ+キャビシミュとして使う
・歪みペダルとして使う
の3パターンが主な使い方だと思いますが、
そのうちの2つ目の用途に含まれる「キャビシミュ」の部分。
ギターのコンパクトエフェクターを使うサウンドをきちんとシミュレーションしたいのであれば、キャビネットより前に空間系ペダルのエフェクトを入れることで、空間系のサウンドもキャビネットの特性が反映されるのですが、
ToneXPedalの場合は、キャビシミュの後ろに繋げるしかないので
ギターエフェクトと言うよりかはDTMやMixで付与するエフェクトのようなイメージになります。
この辺りの仕様は、多分色々コストカットの都合もあったのだろうけど
個人的にはプレイヤー目線に立ちきれていないなと感じます。
BIASDelayを買った時も思いましたが
プラグインメーカーの作るギターエフェクターは、細かい部分のギタリスト視点でのつめが甘いと感じますね。
②オーディオIFは44.1k
製品の謳い文句として、128khzの高サンプリングレートでの内部エフェクト処理を謳っているにも関わらず、
オーディオインターフェースとして稼働する際は、PC側への入力は44.1kとなります。
これはおそらくですがコストカットのために、
かなり処理能力を抑えたCPUを使っているような気がします。
プロファイリング機能を省いたことで、ぶっちゃけた話
CPUの演算能力自体はそこまで必要じゃないんでしょうね。
AD/DA変換自体は、専用チップで処理できますが、
USB Audioとして処理するとなると、演算能力が足りないのだと思います。
ただ、これは大きな問題ではなくて。
前述したようにすでにDTMユーザーのギタリストをターゲットにしてるなら
「お前らオーディオIFはすでに持っているよね」っていう割り切りで切り捨てられた機能なんだと思います。
(あとまあ、どうせミックスでハイとローカットするエレキギターにそんな高音質いらねぇっていう意思表示なのかも)
総じて、オーディオインターフェース機能はあくまでオマケだと思います。
③画面がショボい
コストカットの一番出ている部分!
これはもう何も言うことがないレベルで最低ですね。
フォローのしようがないです。
PCで音を作り込めと言うことなんでしょうが
ライブユースなら現場での操作性は犠牲にして良い部分ではないと思います。
文字数が8文字しか出ないので、アンプモデルの略称+CHを記載するだけで埋まります
例:900 HiGa (Marshall JCM900 Higain と書きたかった)
こう言う点でもプレイヤー目線がやはり欠けていると思いますが
既に出ているAmplitubePedalと筐体を揃えるための苦肉の選択なのか……
④ルーティングが1系統
これは、最近のマルチエフェクターだと当たり前になりつつある機能だと思うのですが、ToneXPedalはルーティング機能がありません。
そもそも製品コンセプトがマルチエフェクターではなくアンププロファイラーなので要らない、と言うことなのだと思いますが
ライブハウスなどの中規模会場でのライブユースを考えると、
生アンプで鳴らすためのルートとPAにライン接続するためのルートは2ルートあったほうがいいのは確実です。
KemperやQuadCortexはマニュアルにもそうしたルーティングの解説が入っていたと思います。
(MainOutをPAにつないで、SubOutからアンプにつなげとかなんとか)
こうした、「使う人は使うだろうが必須ではない」という機能をとことん省いていく、
IKの徹底したコストカットへの執念を感じます。
せめて、HPoutのみは常にキャビシミュONとかの機能はあっても良いと思うんだけどね。。。
⑤グローバルEQが無い
これも現場での操作性の悪さに含まれますね。
プリセット切り替えのフットスイッチがあるので、
ライブで使うときに足で踏んで音色を切り替える想定の機材なんだと思うんですが。
会場のセッティングに合わせて
全体的な調整を行うグローバルEQがToneXPedalには存在しません。
グローバルEQが無いと言うことは
「今日の会場はローが響くな」と思った時は、
それぞれのプリセット全てに対して、BASSのつまみをそれぞれ調整する必要が出てきます。
そうなると、ライブユースで本格運用しようと思うと
後段に調整用のEQを入れるしか無いですね。
ギターやベース用のEQって意外と選択肢が少ないのですが
僕はグライコ嫌いなので、さらに選択肢は狭まります。。。
実機を触ってみての感想
まず感じたのはレスポンスの良さ。
普段toneXはオーディオIF経由で鳴らしてますが、そのサウンドがレイテンシほぼなしで出てくるので、弾いてすぐ気持ち良いです。
次に確認したのはスイッチングの音切れですが、
音切れがあるのは間違いないですが、リバーブかけてたら気にならないレベルじゃ無いかと思います。
感覚的には機械式のスイッチャーでアンプを2台切り替えるのと大差ないくらいのスイッチタイムだと思いました。
後ろにリバーブとか空間系を薄くかければほぼ気にならないと思います。
続いて肝心のサウンド面ですが、
個人的には真空管アンプのリターン挿しはあまりお勧めできないかも。
Marshallのリターンに挿してみましたが
Marshallってパワーアンプでも結構サウンドに癖があったり、PRESENCEはリターンの先にあるパワーアンプ側のトーン回路だったりと、あまりクリーンなアンプとは言えません。
出音もMarshall感が強くなりました。
そもそもToneXのTonemodelの多くは
リアクティブロードなどを使用して、パワーアンプ通過後のサウンドをキャプチャしたものが多いので
真空管アンプのリターンにつなぐとパワーアンプの2段挿しみたいになって変に干渉しそうです。
もし自前アンプをキャプチャする場合、
リターン挿し前提ならあえてSENDからライン入力でキャプチャしてしまうというのもアリなのかもしれません。
肝心の出音自体の感想は、かなり生っぽい印象はありますが
少しプレゼンスとローが実機よりも落ち着いているような印象もあります。
(これはキャプチャ環境やTonemodel次第かもしれません)
とはいえ、
ジャズコーラスからでも重厚な真空管アンプのドライブサウンドがずどんと飛び出してくるレベルなので、真空管アンプのフィーリングが欲しい人はかなり楽に楽しさを持ち運べると思います。
JCは割とプリアンプも素直なので、リターン挿しにこだわらず
前面Inputに挿してEQ調整しても結構使えます。
Middle8、Bass4くらいから始めて、Trebleは0から上げていくのが個人的なおススメ。
最後にライブでの操作性。
フットスイッチはそれなりに間隔があいているので、注意すれば踏み間違えるようなことはめったに起こらないとは思いますが
誤って現在使用中のBANKのスイッチを踏むと、バイパスモードになって急にクリーンサウンドになるので注意が必要です。。。
バンドマン的な最適解を考える
最も実用的な解としての一つ目は
HXStompなどのマルチエフェクターを併用することだと思います。
エフェクトループをステレオで行えるマルチエフェクターなら
ToneXPedalの性能をほぼフルで使い切れると思いますし、
マルチエフェクターの前段にToneXPedalを入れることができる構成であれば、マルチエフェクターでキャビシミュをかけた音をSENDから送り、アンプに繋ぐラインはキャビシミュなしにする、と言うような2系統ルーティングのフォローができます。
単体でコンパクトエフェクターと並べていくのも悪く無いのですが
先ほどの「グローバルEQ問題」がかなりネックとなります。
おそらく、スペースのコスパを考えた時の最強セッティングは
ボリュームペダル+ワウペダル+(歪みペダル)+ToneX+マルチエフェクター
という組み合わせになると思います。
マルチエフェクターとMIDI連携とかさせても良いかもしれませんね。
二つ目の実用的な解としては、
小型パワーアンプを自前で用意することです。
基本的に音色へのキャラクターの影響度は、後段の機材ほど大きくなるので
ToneXの音色をうまく生かしたいなら、なるべくフラットな
トランジスタ系のパワーアンプがおすすめです。
EQがついているタイプなら、前に挙げたグローバルEQ問題も解決できるので
PLAYTECH GPA-100 ペダル型パワーアンプ:https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/262161/
SEYMOUR DUNCAN
Power Stage 200:https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/276339/
このあたりのシンプルなパワーアンプの導入がおススメです。
僕はトランジスタの小型ヘッドアンプ(Quilter OD200)を持っていたので、
そいつにリターン挿しして使っています。
そこまでするならキャビも持って行けよっていう声はあるかもですが
キャビが持っていけるならヘッドアンプも持っていくしToneXなんて要らないよなあ!!
DTMユーザ的な視点でのレビュー
DTMユーザーとしてToneXPedalが嬉しいのは
PC負荷なし、ほぼレイテンシなしでのToneXの高音質エフェクト利用が可能という部分だと思います。
一応オーディオインターフェース機能はありますが、
バンドマン視点のレビューでも少し触れたように、少しオーディオインターフェースとしてのグレードは低い機材だと思います。
そもそも宅録ユーザなら
そこそこちゃんとしたオーディオインターフェースの1つや2つは持っているはず。
ただ、ToneXPedalを使ってDrywetを別トラックとして録ろうとすると
ToneXpedalはルーティングが1系統なので単体でDryWetの同時Outputができません。
ToneXPedalをインターフェースとして使う場合は、本体設定でDryWetの2chにもできるのですが、
それでも本体のアウトプットはいつでもwetシグナルです。
対処法としては、前段でDIなどで二分配しておく……ということになると思います。
とはいえ、DryWetでとりなおす必要がないくらいのクオリティでスパッと録れるので、アンプをマイクで録ったと思って、保険のDryRecは諦めてしまっても良いかもしれないですね。
そういう点でも、オーディオインターフェースというよりかは、卓上アンプのようなイメージで使うつもりで居た方が良いかもしれません。
プリセットがダイアルでゴリゴリ移動できるので
いろんな音色を使い分けるDTM的にはそのあたりも便利なポイントだと思います。
ただ、各プリセット内の音色調整がソフトウェア側からできないので
微調整が本体の操作しづらいつまみになってしまう部分はマイナスポイント。
ここはソフトウェアアップデートでどうにかしてほしいところ。